旅館なかしま荘 上天草市『女将が舞台で舞い、シマアジが口の中で踊る宿。五橋開通後、海辺に佇む一軒の食堂から始まった物語。2代目女将がこだわり続ける故郷の味と想い。味に感激 夕日に感動 出逢いに感謝。「旅館なかしま荘」女将中島加代美さん』かたりば vol.39

取材🎤文章💻撮影📸:太田弘樹(一部写真はご提供いただきました)




〇創業47年。踊る女将と美味しい魚料理が自慢の旅館「なかしま荘」。
上天草市松島町。二号橋を渡って右折し、樋合海水浴場方面へ車を走らせると見えてくるのが、今回ご紹介する「旅館なかしま荘」です。海沿いに佇む最高のロケーションと美味しいお魚料理、そして女将さんが披露するおもてなしのステージ踊りが名物となる人気のお宿です。その始まりは、天草五橋開通後、海沿いで始めた一軒の食堂。そしてお客様の要望を受けて民宿へ、6部屋のみの小さな宿でした。その後1991年に本館を増改築。さらには2014年に離れ海季(UMITOKI)、2024年には天草浜辺の宿美波(minami)を開業され、今の形へとその歴史を紡いできました。今回のかたりばは、そんな「旅館なかしま荘」の2代目女将・中島加代美さん(59)にお話を伺いました。

〇人に喜んでいただける仕事って素敵だなぁと感じた高校の夏。
『実を言うと、もともと旅館を継ぐつもりはありませんでした。教員になりたくて、高校は故郷を出て大学進学を視野に入れていたのですが、夏休みに旅館のお手伝いをした時に、懸命に働く両親の姿や楽しそうな笑顔でお帰りになるお客様を見て、「人に喜んでもらえる仕事っていいなぁ」と感じましたし、両親が大切に築いてきた旅館という仕事やその想いを受け継ぎたいという強い想いが芽生えました。』
旅館業に役立つ経理について専門学校で学ばれ、その後20歳で家業である「なかしま荘」でお仕事をお始めになりました。
『民宿時代は食事処を1部屋づつラジカセ持って踊りを披露していましたが、増改築で部屋数が増えたのを機に、23歳の頃からかな、ステージで踊りを披露する今のスタイルになりました。』
コロナ前まではひょっとこ踊りやフラダンスなど、スタッフやお客様とコラボで40分の笑タイムを毎日、昼と夜と継続していた時期もあったそうです。――あまりにもその踊りが有名になり過ぎて「なかしま荘は踊らないといけないから面接にいくのやめとこうかな⁉」なんて求人で敬遠された時期もあったとか(笑)。コロナ禍で一時中断した期間もありましたが、現在は自分で踊れる範囲内で3曲分に短縮しての披露。「お客様に楽しい時間を過ごしていただき、素敵な思い出になれば」という想いから、今でも舞台で踊りを披露し続ける女将さん。
『うちのステージは無料です。お客様の笑顔や拍手が何よりも嬉しいですし最高のご褒美になります。』

〇地震・コロナ・水害、そしてまた地震。大きな力に抗えなかったこの10年間。
もともと旅館なかしま荘のお客様は熊本のお客様が多い傾向でした。美味しいお魚料理を目当てに年に数回訪れるリピーターも多く、「部屋を作ればお客さんが来てくれる時代」もありましたが、2008年のリーマンショックから潮目が変わったと言います。そんな観光や宿泊への需要の変化に対応するため、2014年に開業した離れ「海季(UMITOKI)」。しかし2年後に熊本地震が発生。大きな借金を抱えたまま、相次ぎ発生したキャンセルに頭を悩ませた日々。その後のコロナ禍、物価高騰による旅行控え、去年の水害、そして今年発生したR8年の熊本地震では、配管に亀裂が入り漏水被害も発生しました。
『「大きな力には抗えない」と諦めるしかない気持ちを味わった10年間ですね。上天草は本来7~12月が一番の観光シーズンのはずが、地震の影響で今年も厳しい状況です。復興割などのキャンペーンに期待したいですね。とにかく頑張るしかないです。』
自社の旅館や同業の宿泊施設だけではなく、この地域に暮らすスタッフや地元の方々、取引先の車えびやアワビ業者、伊勢海老の漁師さん、鮮魚店など天草一丸となってこの難局を一緒に乗り越えていきたい・・・。そんな故郷への女将さんの溢れる想いが言葉の端々に表われていました。

〇写真では伝わらない美味しさがある。誰と来るかで、選べる三つの宿の楽しみ方。
そんな大変な中でも、やりがいを感じる瞬間がたくさんあるのがこの仕事だと笑顔で話す女将さん。
『「ここがいい!」というお孫さんの一言で二年連続ご宿泊いただいたご家族や、「ここの刺身は美味しさが違う。また必ず来ます」と帰り際に言って下さるお客様とか、本当に日々嬉しいことばかりなんです。太田さんご存じでしたか?美味しい時って、人は自然と「うんうん」って言いながら頭を頷かれるんです。うちは魚料理が自慢でもあるので、そのお客様の姿を見ると、本当に嬉しい瞬間なんです。』

流通網が発達し、全国どこでも何でも食べられる時代。旅館なかしま荘は、ここ天草でしか味わえない魚料理にこだわります。鮮度はもちろん〆方や包丁の入れ方など、お客様が口に入れた瞬間の「美味しい」と思える感動体験を提供するため、厨房を含めスタッフ全員が日々努力を惜しみません。
『「魚ってこんなに美味しかったの?」という言葉が私達にとって最高の誉め言葉なんです。写真ではきっと伝わらない美味しさを是非体験して頂きたいし、そんな感動してもらえる場所こそが天草なんです。』
自慢の魚料理はもちろん、2014年に離れ海季、2024年には天草浜辺の宿美波を開業。大人数でワイワイなら「なかしま荘」、貸切湯やバルコニーでくつろぐなら「海季」、風呂付き客室でゆったり過ごすなら「美波」。会社の仲間と、ご夫婦で、親孝行旅行で――誰と来るかで選べる宿泊スタイルを整えた現在の姿。海辺に佇む小さな食堂から始まった物語は今、新たなページがめくられようとしています。




〇帰って来たくなる故郷をつくる ― ―旅館なかしま荘、二代目女将の挑戦は続きます。
ご時世なのでしょうか、M&Aの話も持ちかけられることもあると話す女将さん。
『すべてお断りしています。私の夢はこれからも熱量を持って頑張っている地元の経営者と一緒に歩んでいきたいんです。一緒に仕事をしている子供やスタッフ達も含めて、「故郷を出た人達が帰ってこられる、また帰って来たくなる故郷」にしたいし、なんとかこの自然溢れる故郷を次の世代につなげていきたいと思います。』
2代目女将・・中島加代美さん。その先に見据えるのは、宿だけの未来ではありません。47年分の信頼と故郷への想いを胸に、これからも女将さんは舞い続けます。





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