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 キャリエール上天草『島の縫い子はまだここに健在です。 ワンサイズ一枚から世界へ—夫婦が灯し続ける縫製の島としての輝き。キャリエール— 54年の軌跡、久保田徳治さん・美奈子さん夫婦』かたりばvol.35

2026/7/19

かたりば

 キャリエール上天草『島の縫い子はまだここに健在です。 ワンサイズ一枚から世界へ—夫婦が灯し続ける縫製の島としての輝き。キャリエール— 54年の軌跡、久保田徳治さん・美奈子さん夫婦』かたりばvol.35

取材🎤文章💻撮影📸:太田弘樹

〇シンデレラフィットな下着を縫う。天草の片隅で縫い子の歴史を紡ぐ「キャリエール」。

上天草市松島町今泉。千元森嶽の麓でミシンの音が絶え間なく響く小さな工房があります。縫製工場の「キャリエール」です。一歩足を踏み入れた私は、目の前に広がる光景に思わず息をのんでしまいました。壁に掛けられた色とりどりの糸、使い込まれたいぶし銀の無数のミシンや裁断機、天井まで積み上げられた布やリボンやレースの数々。それはあたかも絵本の中に迷い込んだかのような実にカラフルな福眼の世界。素材が、道具が、働く人をふくめた全てのものが、そこに存在する意味や価値―必然性を見い出している様に感じます。たくさんのものが溢れた無駄のない素晴らしき世界。いや~しょっぱなから痺れましたね~。ということで今回のかたりばは、そんな縫製工場「キャリエール」を営む、今年結婚54年の久保田徳治さん・美奈子さんご夫婦にお話をお伺いしました。

〇この島で女性が働ける場所をつくりたいという想いから。

大小120の島々が存在する私たちが暮らす天草地域。この海と山に抱かれたある小さな島でひとつの仕事が産声を上げました。

『この島に、女性たちが働ける場所をつくりたい。』

当時、地域活性化のため奔走していた父の願いを胸に、看護師だった娘・美奈子さんと、船舶のエンジンなどを取り付ける職人だった徳治さんは今から54年前、結婚と同時に“縫製”というまったく未知の世界へと夫婦二人して飛び込むことに。まさにゼロからのスタートでした。

『経験のない私達に何ができるのか?まずは縫い子さんたち約10名を引き連れて、はるばる大阪の工場へ研修に向かうところから始めました。そこはミシンが整然と並ぶ大都市の工場で、バインダーから袖付け、全ての工程を学ぶ予定でしたが、縫い子さんたちがホームシックになってしまい、2週間足らずで島へ帰ってしまう事に(笑)。縁あって大企業の下請けとして仕事を受注することができて、多い時にはおよそ70名の縫い子さんに働いてもらっていました。』

順調に滑り出した縫製の仕事。女性が働く場所が生まれたその島には活気が満ち溢れ、まさに天草を代表する「縫い子の島」と呼ばれるほどになりました。

〇背中合わせで夜11時まで。約40工程、実働3時間—非効率という名の誠実—久保田さんご夫婦が守り続けた島の縫い子としての譲れない誇りや確かな技術。

子育てが落ち着いた2000年頃、久保田さんご夫婦は島を出て、現在の松島町今泉に住居兼工房を構えます。屋号は「キャリエール」—フランス語で“生涯にわたる仕事、人生の歩みや活動の場“という意味の言葉で、「仕事がいつまでも続きますように」との願いも込められているそうです。やがてその願いは、思いがけぬカタチで叶えられていくことになります。下請けの仕事に陰りが見え始めた頃、知人の紹介で出会った卸問屋。キャリエールが持つその高い技術力が即座に認められ、補正下着という新境地での活動が始まりました。しかし現在の従業員は、夫婦を入れてもたった4人のみだと言います。

『一枚の下着を完成させるのに約40工程もあるんです。 流れ作業など望めない小さな工房なので、一人あたり10工程づつを担い、ミシンの糸を作業の度に付け替えながら一枚一枚仕上げていく。7時間の勤務のうち実働はわずか3時間ほど。効率はとことん悪いんです。おそらくうちにしか出来ない仕事です。』

サイズは100通り以上、カラーは13色。生地、リボン、糸を使い分け、痒いところに手が届く—生地の裁断から商品の完成まで全工程を、しかもワンサイズ一枚からでも請け負う「キャリエール」。 大企業には決してできない仕事です。必要とあらば徳治さんが製作した専用工具で精度を高め、1ミリ単位で身体にフィットする着心地の良さを追求するその仕事ぶりから、注文は海を越えマレーシアからも届くようになっています。

〇職人気質の夫と太陽のような明るい妻。名コンビが生み出す最高の一枚。

縫い子さん達が帰った後の静かな工房で、久保田さん夫婦は黙々と作業を進めます。結婚54年の久保田さんご夫婦。キャリエールを立ち上げた当初は夫婦二人しかおらず、朝早くから夜遅くまで背中合わせで仕事を続けた忙しい日々を過ごしたそうです。美奈子さん曰く、

『仕事が趣味みたいな人なんです。暇さえあれば、夜でも休みの日でもここで何かやっています。本当に仕事熱心で感心します。でも下着売り場で商品をじろじろ見るのはちょっとやめて欲しいですね(笑)。』

『妻の気さくで明るい性格が雰囲気を良くしてくれていますし、働きやすい職場になっています。職人気質な私と芸術的センスを併せ持つ妻。私達二人だからこそここまでやってこれたのかも知れません。』

まさにそんな名コンビだからこそ、奇跡とも言える最高の一枚が仕上がるのでしょうね⁉かつて数多くの縫製工場で賑わいを見せた天草地域ですが、今や数えるほどになっています。時代の流れの中で淘汰されつつある「縫い子の島」としての存在価値。それでもこの地域に花開いた縫製技術は、確かに今なおこの地に息づいています。勤続25年のベテラン縫い子さんとともに、久保田さんご夫婦が54年という歳月をかけて培ってきた、たった一枚の下着に魔法をかける唯一無二の技術。1ミリ単位で身体にフィットするその仕上がりを人は“シンデレラフィット”と呼びます。この天草の片隅の小さな工房「キャリエール」で、今日もひと針ひと針、想いを込めて最高の仕上がりをイメージしながら縫い上げていきます。

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